「議論の現状」の問題点を探る。

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Ameba New「歴史を誇りにする」おかしくないですか?を素材にして。

議論の現状と、その構造解説をする意図と提案

Youtube的、テレビ的な面白さだけを追求し、「なんでもあり」とするのであれば、よりフォーマルな議論のルールに関する知識は必要ないかもしれません。しかし、①議論の各参加者同士が互いに相手の主張内容を理解して、自分との類似点と相違点を明確にする、②議論の質的向上をはかる、③議論前よりも議論後の方が、参加者全員が当該の問題に関する理解が深まったという認識を持てるようにする、及び④視聴者が議論の内容をよりよく理解できるようにする、を目指すのであれば、現時点でのAmeba Newをはじめとするyoutube上の議論のあり方を基本的に再検討することをここに提案します。

さらに、議論の流れをよくし、議論のもつれをただし、当該の時点での話題と関係のない発言や、論理性に欠ける発言を指摘し、正すのは司会者の役目です。そのためには、司会者は議論に参加せず、必要に応じて交通整理だけに徹するべきです。また、司会者は何らかの議論のモデル(議論のマナーも含む)について熟知し、かつその知識を運用するスキルを身につける必要があります。

Youtube Ameba New「歴史を誇りにする、おかしくないですか?」を視聴され、どんな印象をお持ちになったでしょうか? さまざまなコメントがおありかと思います。各発言者の言いたいこと(主張)が理解できましたか? 議論は噛み合っていましたか?発言者間でやりとりはできていましたか?

皆さんはさまざまな感想をお持ちかと思います。その感想をより明確に表現するためには、そもそも「議論とは何か」について基礎的な知識が必要です。まずは、その知識をチェックしましょう。ここで指摘している問題点の詳細に関しては本ブログにある拙著「議論のレッスン」(NHK出版新書2018)をお読みになり参考にしてください。

本解説を理解するための資料

議論の現状を見るために、上記のyoutubeを議論分析の対象にします。本資料を読むには以下の2つを事前に参照することをお勧めします。資料は全て本ブログに含まれています。

資料1:Ameba New「歴史を誇りにする」おかしくないですか?   

資料2:Ameba New「歴史を誇りにする、おかしくないですか?」の全体を文字起こしたもの。

なお、お断りしておきますが、本ブログは、あくまでも「議論の論理・論証構造上の問題」にだけ言及し、議論の内容自体には全く触れません。また、このトピックはランダムに拾いあげたもので、本トピックを選んだ意図はありません。

議論の流れとその構造についての解説

以下、次の手順で記述してあります。まず、最初に(a)本議論の論理構造上の問題点(論証などを中心に)をリストアップします。(b)その具体的事例が議論のどこに対応するかをyoutubeの特定の場面を引用して解説します。

それがなんであれ問題を指摘するには、どの視座からその問題を指摘するのかを明示しておく必要があります。ここでは、問題点の指摘、解説には議論のモデルを使います。福澤のブログでは終始一貫してトウールミンの論証モデル(議論の技法、S.トウールミン著、戸田山・福澤訳)を使います。トウールミンモデルでカバーできない箇所は、議論の一般的なルール(拙著「議論のルール」NHKブックス、「論理学がわかる辞典」三浦俊彦著、「論理トレーニング」野矢茂樹著など)を基準にします。

なお、本youtubeを福澤が文字起こしした範囲では発話数(一人の発話者があるまとまった発言をしている場合に、それを1つの発話とカウントしている)は全体で187です。問題を指摘する発話の具体的事例は議論全体からランダムに拾ってあります。網羅していません。

a)問題点のリストアップ

  • 発言内容が論証になっていない。つまり、根拠を提示し、そこから主張なり結論が導かれていない。
  • 根拠が示されてもそれが事実ではなく、推測になっている。
  • 相手の話を聞かない。相手の質問に答えない。つまり、自分の発言の番がくると今までの話はさておき、自分の言いたいことだけをいう。これによって話が切断されてしまい、その時点で論理的リンクが切れてしまう。
  • 議論の争点が複数同時に扱われ、かつ争点が参加者の間で共有されていない。
  • 議論の対象が共有されていないため、話が拡散していき、拡散の先で拾われたトピックからさらに拡散が生じる。
  • 根拠と主張の抽象度が同じレベルに留まっている。発言が独断になっている。一般に、根拠は主張より具体性が高い必要があります。つまり、論証では具体的な根拠から、より抽象的な主張が導かれます。
  • 同時に複数の事柄について言及するため、言及の中心的主張がわからない。
  • 対象レベル(次元)の違う話を同時にしている。または、発言間の意味関係に注意がいかず、事実関係に注意が向いている。
  • 定義がされていない理論語の使用。
  • 分配の過ち:カテゴリーベースでステレオタイプを押し付けること。

b)問題点(①から⑩)に対応する具体的発言事例と、当該の議論の時間的位置(発話者の後にある時間表示)を参照しながらコメントをつけます。

問題点① 発言内容が論証になっていない。つまり、根拠を事実として提示し、そこから主張なり結論が導かれていない。または、自分の主張が根拠によって支えられていない。

具合的事例 発話者の前につけられた番号は、議論の開始から最後までの発話順通し番号です。

1茂木 4:08 yoububeにおける時間記録 

例えば、①戦略論の方がよっぽど信用できると思う。 ②歴史はちょっとイデオロギーに近いところがある。③あまり歴史を勉強しても正しい道はわからない。

*上記の①、②、③はいずれも主張であるが、その根拠は示されていない。主張自体は単独で取り上げても評価の対象にはならない。どのような論証プロセスを経て、結論に至ったかのプロセスの吟味を吟味した初めて主張の評価が可能となる。

12司会者6:50

 要は真珠湾攻撃そのもの1つを捉えていいか悪いかと言うより、もしかしたらそれは間違っていたかもしれないが、トータルとして、自分の国に誇りと自信を持てとおっしゃっているのなら、ひろゆきさんのおっしゃる事と話がずれていると思います。

*この主張に、具体的根拠をつけるには、ひろゆきさんの特定の発言に言及する必要があります。さらに、ひろゆきさんと田母神さんの意見の間のどこがズレているかを指摘する必要があります。

24田母神

 、、、。①日本の歴史が他の国から検証を受けるような必要はありません。②日本にも良いところもあった悪いところもあったかもしれない。③それでも総じて我々の先祖は頑張ったし、④この国は良い国で、⑤これからも世界のために我々は頑張れるんだと思えばそれでいい。

 *①から⑤はそれぞれ主張ですが、それぞれを支持する根拠に言及されていません。根拠を伴わずに主張だけを提示するのは議論としてルール違反になります。

97宇佐美

、、、なるわけですよね。①少なくとも制度的な議論と言うのは、それぞれの権利が生まれた背景だとか状況の変化と言うものを通じてアジャストしていくということをやらざるを得ない。②現代的価値を理解しようと思ったら歴史を勉強せざるを得ないじゃないですか。

*上記①、②とも主張ですが、根拠が示されていません。論証が成立しません。

*形式上では論証になっている発言

司会者 12,157

田母神 5,24,44,95,128,135,139,184

茂木    33,38,96,160

ひろゆき 4,14,45,57,105と107の組み合わせで1つの論証、109,115,136,138

宇佐美  15,59,97,152

上記番号は資料2の文字起こし資料にある番号と対応しています。ただし、論証の形式になっているだけで、内容的に問題があるものも含めてあります。

問題点② 根拠が示されても、その出典が不明か、根拠が事実ではなく推測になっている。

57ひろゆき

茂木さんに説明していいですか?①要は戦争してでもウクライナを手に入れるというのが正しいと言うふうに思うのをロシア政府が言って、②国民がそれを支持したから、③最初からずっとウクライナに兵隊がいたとしても何もないし、④クリミアを取りに行った時ロシアの支持率が上がったんですよ。2014年に。

 *ここでは①、②が根拠で、その根拠を元に③と④という2つの主張をしています。論証の形式にはなっていますが、根拠①②がどこから引用されているかが不明のままです。このような根拠を出す以上、何らかの具体的な引用先があるはずですので、それを明示する必要があります。裏が明確に取れない根拠を使うのは議論上ルール違反です。

問題点③ 相手の話を聞かない、相手の質問に答えない。つまり、自分の発言の番がくると今までの話はさておき、自分の言いたいことだけをいう。これによって話の論理的リンクが切断されてしまい、議論は停滞してしまう。本義論においては、このように相手の言っていることを聞かないままの発言が大半を占めています。

*次の2茂木から6茂木までは当該の話者の直前に誰かが発言しています。しかし、その直前の発話内容に反応しているのは4ひろゆきだけで、残りは全て直前の発言内容とは関係のない発言をしています。議論は継続していますが、内容的には論理的リンクがありません。

1司会者

 茂木さん改めてどう言った思いで書かれたのか、そして歴史過剰ですよね、、、

2茂木(司会者の議論のきっかけになる質問に答えていない)

 数時間をばかにしてはいけない。ものすごく集中して数時間読んだらかなりのことがわかるし。田母神先生、正しい歴史は日本にとってあるかも知れない、韓国にとってもあるかもしれない、 中国にとってもあるかもしれない。 今、ロシアとウクライナの正しい歴史がぶつかり合っている。 でもそういうことよりも、 例えば、戦略論の方がよっぽど信用できると思う。 歴史はちょっとイデオロギーに近いところがある。 あまり歴史を勉強しても正しい道はわからないというのが僕の立場です。先生、どうですか?

3田母神

 歴史が個人にとって必要だと思うのは、 やっぱり、自信と誇りを持って生きる、自立して「こうするべきだである」と言う判断をできる人間になるためは、そのためにやっぱり自分に自信と誇りを持つ、そのために自分の国に誇りを持つ、また自分の親も立派な親だったと言うことで、そしてその上に立って初めて自信を持って自立的に行動できるのではないかと思う。歴史は)アイデンティティの根幹ではないかと思う。

4ひろゆき

 逆にそこが問題の要因だと思っていて、自信と誇りを持つために歴史を使う必要はないと思う。例えば、アメリカが自信と誇りを持つために「俺たちは人種差別などしてない」と言ったら、それはいやいやという話ではないですか。 今回も真珠湾攻撃がウクライナの大統領に言及された訳で、あれもやっぱり、そもそも 戦争すると言っていなかったのに日本が勝手に攻めてきたのが国際的な意識ではないですか。 でもあれを自信のために「正しいんだ」と言い出すと揉め事になるじゃないですか。だから、自信と誇りを日本人が持つために歴史は使わなくていい。

5田母神

 だから、よその人に向かって正しいと言うようなことを言う必要はないと思う。ただ自分の内面の問題としてやっぱり自信と誇りを持っていないと自立して決心することができない。(主張のみで根拠が示されていない)

6茂木

田母神さんの言う事はわかりますます。円谷さんが撮った戦争の映画があります。真珠湾攻撃の直前に、兵士がどういう気持ちだったかと言うことを当時の文法で描いているのですが、それまで日本には日本の立場があり、アメリカにはアメリカの立場があった。田母神さん、どうなんですか、プーチンさんはロシアの歴史で、ロシアに誇りを持っている訳じゃないですか。軍人と言うのは、こっちが日本の誇りを持っていますよね。向こうは向こうの誇りを持っているわけじゃないですか。じゃあ、向こうの誇りを尊重すると言うことですか

 *1の司会者から6の茂木まで直前の発言に触れていません。

*次の59宇佐美から67茂木の間のやりとりも、当該の発話者の直前の発話に答えていません。それぞれの発話者が単独で自分の主張を繰り返しています。

59宇佐美と60茂木はリンクしているように思えるのですが、実は、この二人が「理解するとは何か」について認識が一致しているかどうかの話には進展していませんので、言葉の上だけではリンクしているように思えるのです。

59宇佐美

 普遍性というものを語るのであっても所詮人が決めたことなんだから、人の過ちとか、人がやってきた良いことを学ばずに普遍的なことを理解できるはずがないじゃないですか。

60茂木

 理解できますよ。

61宇佐美

 だって、それって人間と言うものが100%定義されたものだと言うことですよね

62茂木

 感覚が違うんだよなぁ。おそらく。

63司会者

 宇佐美さんが言う深いところまでではなくて、通史の段階でどういう経緯でこうなったということを学べばもうわかると言うことでしょうか。

64宇佐美

 普遍性をどうやって理解するんですか

65茂木

 木を見て森を見ずと言うことだと思う。

66司会者

 普遍性まで言い出したら世界史から出ますと、評価解釈になりますよねと言うことを茂木さんはおっしゃっているんですよね

67茂木

 そこが文系の病気なのよ。科学者は進化心理学とかいろんな理屈があるわけ例えば最終条件集団とか知っているでしょ。はっきり言うけど歴史なんかクソどうでもいいんだよ。そんなことよりもいろんなもっと別の学問があるんだよ。

問題点④ 議論の争点が複数同時に扱われ、かつ争点が参加者の間で共有されていない。

茂木の主張、見解:歴史は重視する必要はない。現代的、普遍的価値観に焦点を当てるべきだ。歴史以外に知っておくべき学問分野がたくさんある。

  • あまり歴史を勉強しても正しい道はわからない。
  • 1つの歴史に収束すると言う前提を原理的にも実際的にも要求するのは無理だ。
  • どの歴史が正しい、正しくなという争いはナンセンスだから人権とか、自由とか平等とか現代的な普遍的な価値観を当てはめたほうがいい。
  • 歴史オタクほど認知科学とか、心理学における差別とか偏見とか起こる構造とか、敵味方の構造ができることについての研究の成果を知らない。
  • 歴史を理解すること、背景等を理解する事はトリビアの話であって、それ以外にも他にたくさん学問がある。そのいろいろな学問の総合的なアプローチをしなければダメじゃないですか。

田母神の主張、見解:日本の歴史に自信と誇りを持つことが日本の国民にとって大事だ。歴史はアイデンティティである。

  • 歴史を自分の内面の問題としてやっぱり自信と誇りを持っていないと自立して決心することができない。
  • 歴史教育をきちんとして自信と誇りを持つことが、今の現状の日本の国民にとっては非常に重要なことだと思います。
  • 自衛隊がね、どっかから侵攻を受けたときにね、戦うかと日本はろくな国じゃないと、「いいか(この国が)なくなって」もと思ったらた戦えないです。
  • それはね自分の国が立派で、先祖たちも立派で優れた伝統文化があってこの国は守る価値があるんだと言う思いがある。

ひろゆきの主張、見解:歴史と道徳は別であり、歴史を自分の誇りの基礎にする

のは誤りである。

  • 歴史を自分たちの誇りの基準にすること自体が間違っているのです。
  • 歴史を利用して国民が納得している以上、それは内面の問題ではなくて、それはちゃんとした戦争の理由になってしまっているので、「他国が歴史観に文句言うべきでない」は間違いだ。
  • 歴史と道徳は別。

宇佐美の主張、見解:戦争、現代的価値、制度など多くの事柄を理解するには歴史的背景に関する理解が不可欠である。

  • 歴史を好き嫌いと、良し悪しの2軸で判断するべきであり、悪い歴史、良い歴史はある。
  • 各国の検証を受けた上で歴史的に記述されているものが良い。
  • もともと戦争がなぜ非合法化したかは歴史を学ばずに理解できるはずがないのだから。
  • 普遍性というものを語るのであっても所詮人が決めたことなんだから、人の過ちだったり、人がやってきた良いことを学ばずに普遍的なことを理解できるはずがないじゃないですか。
  • 現代的な価値観と言うのはどういう背景から生み出されているかと言うと、それぞれの権利と言うものに関して歴史が伴っているわけです。
  • 制度と言うものを作るときに、少なくとも歴史的な背景を説明せざる得なくなる。

*4人とも歴史に言及はしているが、それぞれが問題としている内容は各々独立であり、相互に関係がない。

問題点⑤ 話が拡散していき、拡散の先で拾われたトピックからさらに拡散が生じる。

145宇佐美

制度と言うものを作るときに、少なくとも歴史的な背景を説明せざる得なくなるし、そうじゃないと国会で合意を取れない。

 *制度を作る場合に歴史的背景知識が必要であることは、宇佐美が終始一貫して主張している。しかし、制度の確立が国会の合意をとることと、制度とは何かを語ることは相互に独立である。つまり、この発言は、話を収束にむけるのではなく、むしろ拡散している。

問題点⑥ 根拠と主張の抽象度が同じ程度になっている。(一般に、根拠は主張より具体性が高い必要があります。つまり、論証では具体的な根拠から、より抽象的な主張が導かれる。)

3田母神

 歴史が個人にとって必要だと思うのは、 やっぱり、自信と誇りを持って生きる、自立して「こうするべきだである」と言う判断をできる人間になるためは、そのためにやっぱり自分に自信と誇りを持つ、 そのために自分の国に誇りを持つ、また自分の親も立派な親だったと言うことで、そしてその上に立って初めて自信持って自立的に行動できるのではないかと思う。(歴史は)アイデンティティの根幹ではないかと思う

*発言者の意図を汲んでここから論証(根拠と主張の組み合わせ)を取り上げてみます。論証しているのは「自信と誇りを持って生きる、自分の国に誇りを持つ、また自分の親も立派な親だった思う(根拠)。だから、その上に立って初めて自信持って自立的に行動できる(主張)」でしょう。「根拠、だから、主張」という形は見えますので、形式の上では論証はしていますが、主張を支えるための根拠の抽象度が主張のそれと同じ程度になっています。ですから、厳密には論証としては成立していません。一般に、根拠は事実で、主張は事実ではありません。なぜなら、主張は事実から飛躍して導いているものですから。

95田母神

 日本の場合は、韓国とか中国からね、「日本は悪い国だ、悪いことをした」と言われるから、向こうから言われなければ、何も言う必要は無いのに、言われて「日本人がそうか謝らなきゃいけないのかな、謝罪しなきゃいけないのかな」と思っていること自体が日本人の発想を貧困化すると思いますよ。だから歴史教育をきちんとして自信と誇りを持つことが、今の現状の日本の国民にとっては非常に重要なことだと思います。

 *、、、①と思っていること自体が日本人の発想を貧困化すると思いますよ。だから、②歴史教育をきちんとして自信と誇りを持つことが、今の現状の日本の国民にとっては非常に重要なことだと思います。

 この部分の主張は②の部分です。歴史教育をきちんとして自信と誇りを持つことの内容は抽象的な概念です。主張としての抽象度には問題はありません。しかし、この主張を導いた根拠「①、、、と思っていること自体が日本人の発想を貧困化する」の抽象度も主張②と同じ程度に高くなっています。つまり、ここでは表面的な論証しか生じていません。独断に近い表現になっています。

問題点⑦ 同時に複数の事柄について言及するため、中心的主張がわからない。

133宇佐美

・①私自身の経験を言うと田母神さん的経路をたどったわけですよ。私は日教組的な教育を受けて、自分のじいさんが戦争に参加していて、自分のじいちゃんはそんな悪いことしたんかなというところから入って、歴史的な勉強したわけですけれども。②その過程で学んだのは各国が言っている事は違っていて、歴史って相対的なもんであるということを学んで、そういう意味で田母神さんが言っている事は国ごとに歴史が違っていていいじゃないって言う事はいいと思うし、そうだと思う。③韓国と中国が言っていることが正しいわけじゃないと思うのはいいと思うんだけれども、そう思った時にそれでもどっかで領土問題とかで対立する軸が出てくるわけですよね。その時どう話し合うのでしょうか。今回のウクライナやロシアもそうですけれども。

*口頭での議論は思いついたことを一度頭で推敲してから言うというのは誰にとってもむずかしいことです。ですから、関連のありそうかことを色々言ってしまうのはある程度仕方のないことです。そこで、一つの工夫は多くのことと一度に話さないようにすることです。133宇佐美の発言は、大まかにみると3つのことについて言及しています。そして、その3つには連想上の関係があるかもしれませんが、論理的(意味的)関係があるわけではありません。

問題点⑧ 異なる次元の違う話をお互い、同時にしているので、争点が噛み合わない。または、発言間の意味関係に注意がいかず、事実関係に注意が向いている。

13田母神

 全体としてこの日本の国はやっぱり立派な国なんだという歴史観を日本人は持つべきだと思いますね。この国はひどい国だとか、そんな風に思っていたのではやはり国際社会の中で自信を持って行動できないと思います。

14ひろゆき

誇りを持つべきだと言うのは誰も反論しないと思うんですよ。(誇りの)持ち方の問題で他の国から見たらそれはおかしいでしょう。例えば豊臣秀吉の朝鮮出兵を見れば「何をやってんだお前ら」と攻められた側は思うわけじゃないですか。日本はいい国で誇りの高い国だからだから今までやったことは全て正しいとうわけじゃないですよね。だから、歴史を自分たちの誇りの基準にすること自体が間違っているのです。(ひろゆきさんは、一貫して歴史と国民の誇りを独立に考えていることを表明している。一つの論点はここにある。)

*日本に誇りを持つことと(13田母神)と、その誇りをどのようにして持つか(14ひろゆき)は議論の対象が類似しているために直接ぶつけ合えるものと考えがちである。しかし、実際は両者の話題は異なる次元に属するもので、同一レベルで論じることはできない。

問題点⑨ 定義がされていない理論語(使用範囲と使用条件が示されないと使えない言葉)の使用。

15宇佐美

そういうときに片方の主張だけを取り上げて歴史を作るのは①悪い歴史だと。両方のバランスをとってどのような資料からも検証できる一貫したストーリができればそれが②良い歴史だと言われていると。だから、2軸で判断するべきであり好き嫌いと良し悪しで、良い歴史はあると

*①、②にある良い歴史、悪い歴史の「良い」、「悪い」は理論語です。なんとなく日常的に使っている言葉でも人によってそれぞれ違った意味で使われる場合が多々あります。その言葉を明確に定義して使わないと、それがもとで議論が空回転する場合があります。

49宇佐美14:49

 それをちゃんと理解しようと思ったら歴史の理解がないとそういうことにならない。

 *「ちゃんと」というのも厳密には理論語です。何をどうすると「ちゃんとしたことになるのか」は不明です。ですから、何をどうするかの手続きを具体的な内容に書き換える必要があります。

59宇佐美

普遍性というものを語るのであっても所詮人が決めたことなんだから、人の過ちとか、人がやってきた良いことを学ばずに普遍的なことを理解できるはずがないじゃないですか。

*ここで使用されている「普遍的」、「理解」は使用範囲と使用条件が示されないと使えない言葉です。一般に使われている用語は個人内では整合性の ある使い方をしますが、誰かを相手にする場合、それが同じ意味で使われている保証はありません。

59宇佐美

 普遍性というものを語るのであっても所詮人が決めたことなんだから、人の過ちだったり、人がやってきた良いことを学ばずに普遍的なことを理解できるはずがないじゃないですか。

60茂木

 理解できますよ。

*一方は理解できない、他方は理解できると言っています。「理解とは何か」が一致していなければ当然生じる対立です。

77あおちゃんぺ  それとは多分歴史と関係がない

78茂木

 いや歴史と関係あるんでしょ。通常あるんだって。

89茂木

それをあえて学問的に説明する色々な試みがあるんですよ。それは歴史と関係がない

90宇佐美

関係ありますよ。戦争する前は第一次大戦前に戦争する事は違法でしたか?質問に答えてください。普遍性があるんでしょ?

*「関係」も重要な理論語です。「関係」は複数の対象間に生じるものですから、2つ以上の対象がない場合には使えません。その時、「関係がある」とするのはその複数の対象間のどこに類似、相関、共変を見出すかは主観が決定しています。同様に、「関係がない」とする場合も主観が決定しています。ですから、「関係」について話す場合は各自の主観を事前に照合する必要があります。

問題点⑩ 分配の過ち:カテゴリーを基礎的背景として、ステレオタイプを押し付けること。

152宇佐美31:17

 あおちゃんぺとか、茂木さんが言っている事はアメリカ的なんですよ。アメリカ人て、なんかこの、歴史が薄いので、何か裁判を通してお互い議論して、制度を決めていくって言うコモンロー的な感覚はちょっとねぇ。我々とはかけ離れていると思うから。そういうところだと理論的な積み上げて制度を作っていく。

*「アメリカ人て、なんかこの、歴史が薄いので」のように、アメリカ人と言うカテゴリーを根拠の一部に使い、そこからな何か結論を導くのは差別発言にも通ずる、議論ではやってはいけないルール違反です。