議論の技法 Stephen Toulmin 著(戸田山・福澤訳 2011年 東京図書)

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本書は、スティーブン・トウールミン著、The Uses of Argumentの全訳である。原著第一版は1958年にケンブリッジ大学出版会から出版され、2003年に、アップデート版が同じ出版会より出版された。本書の底本としたのはこちらのアップデート版である。

ウールミンと言えば、近年注目されるようになったクリティカル・シンキングにおける「トウールミン・モデル」の生みの親として名高い。データと結論を論拠が結び、論拠にさらに裏付けがなされる、と言う例のやつである。トウールミン・モデルは本書第3章で導入される。しかし、本書の射程はクリティカル・シンキングの理論的基礎を与えることにとどまらない。むしろトウールミン・モデルは彼の目指す、よりスケールの大きな哲学的作業のための道具になっている。

その哲学的作業は次の2つの柱からなる。第一に私たちの日常的論証の仕組みを、その現実に即して明らかにすること。第二に、その日常的論証の現実をゆがめて理論化してしまう形式的論理学と、その歪みに依拠し、それに引きずられる形で展開してきた伝統的認識論の問題設定とを徹底的に批判すること。この意味で、本書はいわゆる日常言語学派の系譜に連なる重要著作だと言えるだろう。実際、トウールミンは、本書に最も影響与えた哲学者としてギルバート・ライルの名を挙げている。また、 また、論証や結論の「意味」を考える際、あるいは、結論を限定付きなものにする「おそらく」などの様相語の「意味」を与える際に、それを発話することによって発話者が何を「する」ことになるのかに注目するという分析方針は、オースティンの言語行為論から学んだものであろう。さらに4章で展開される形式論理学批判は、ストローソンの形式論理学批判をさらに徹底させたものになっている。というわけで、本書を単に「トウールミン・モデル」の原点としてのみ読むのは、ひどく「もったいない」ことなのである。(訳者あとがき、より)